ペルシャ絨毯の美しさ
ペルシャ絨毯の誕生
敷くだけでぬくもりや明るさ、洗練された華やぎが生まれるのが絨毯です。絨毯が生まれたのは紀元前5世紀ごろの西アジアから中央アジアにかけての砂漠地帯。遊牧民が寒さや地面にいる虫などから身を守り、暖を取る為に、飼ってきた羊の毛を工夫して織ったものが由来です。通常の織物に羊の毛を絡ませることで表面に毛羽(けば)が生まれ、糸を立たせて作る毛羽が、足で踏んだときのふくよかな感触を生むのです。
それぞれの地域やそこに暮らす民族が特徴あるデザインを生み出してきました。中でもペルシャじゅうたんは草花をモチーフにした無限に繰り返される文様で世界的に知られています。人々が何を好むかという問題を考える時、外してはいけないのがその人々がどこに住みどういう環境下で暮らしているかと言う視点です。ペルシャはフランスより広い国土にご存じのように広大な砂漠地帯が広がっています。砂漠という厳しい環境のなかで単調な乾いた土の色一色の大地に、渇望するかのように色彩豊かで複雑な図柄が描かれてきました。砂漠の色の少ない場所で人々が身の回りに美しい世界を作り出そうとした、それが絨毯です。
絨毯は点描画
絨毯は縦横の糸にウールやシルクを挟み込み結びつけていく事で絵をかいて行く芸術品です。1センチ四方の中の結び目を数えてみて、この結び目が多ければ多いほど手間をかけて織られたじゅうたんなのです。このち密な結び目こそ文様の美しさを決めます。
文様には意味があります。
日本の花嫁衣裳を見ると、鶴やカメなど吉祥文様と呼ばれるおめでたい柄がちりばめられ、また逆に弔事には流水・紗綾型・波・雲などの模様が用いられます。模様には模様に込められた先人たちの想いや意味があるのです。同じようにペルシャ絨毯にも文様には様々な意味が込められています。特に偶像崇拝を禁じるイスラム圏では文様に込められる想いはより深いものとなります。たとえばペルシャ絨毯に良く使われる「ミフラーブ文様」アーチ形の門のようなデザインです。これはイスラム教の礼拝所の中にあります。正面にあるアーチ形の壁のくぼみが「ミフラーブ」で、聖地メッカにあるカアバ神殿の方角を表している部分です。そのミフラーブが描かれたじゅうたんは礼拝のときに使うもの。 聖地メッカの方角にむけて敷きその上で祈ります。ミフラーブ文様のじゅうたんは敷いた場所を聖なる祈りの場所に変えるのです。
またもう一つ代表的な文様としてメダリオンがあります。イスラム教の寺院・モスクの天井を見上げると、天上の中心にメダリオンのような模様があり、ペルシャ絨毯のメダリオンはその模様を元にしています。真ん中の大きな文様は太陽や宇宙の中心を表して、周囲に力強くのびるつる草は生命力あふれる自然を賛美しています。礼拝の時には広げたところが聖なる空間に。花柄が美しいじゅうたんはまわりが殺風景な中でも、その中に逃げ込むとそこは楽園であり厳しい現実の中で、非日常的な空間を作ることができるのです。
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