敷物の中に緞通(だんつう)と呼ばれるものがあります。中国では絨毯にことを毯子(だんつ)と呼び、毯子を音訳したものが緞通です。広義では絨毯として扱われますが、幅の広い絨毯で手織りの高級敷物であるという特徴があります。段通と書かれることもありますが、緞通と段通は漢字表記が異なるだけです。「緞」は劇場に使われる「緞帳(どんちょう)」にも使われている言葉で、厚手があり光沢を持った織物を指します。元々はペルシア(現在のイラン)などで作られていた敷物で、シルクロードを通って中国に伝わったとされています。
中国緞通はペルシャ絨毯と同じように、手で縦糸と横糸にウールやシルク糸を結び付けて形を作って行く手織りの大変時間のかかる織りものです。結びつける糸が緻密で細かく結び付けられているほど時間も手間も技術も必要になって来ますから高級品となります。緞通と言う言葉は中国の毯子(タンツ)から来ていますが、この言葉を訳すときに、手織りに縦糸に糸を一本一本通していく製造工程から、段々に通していくから段通(緞通)と呼ばれるようになりました。
中国緞通が盛んに織られるようになったのは、明朝時代の頃から日本でいうと室町時代から戦国時代を経て江戸時代に入るころになります。京都の祇園祭の山鉾の飾りなどにも明時代の貴重な緞通が使われています。ペルシャ絨毯と同じ結び方で地経(じだて)糸に太い毛糸のパイル糸を結び、これを1本1本カットしながら織り上げていきます。中国緞通独特の厚みのあるボリュームとケミカルウォッシュでの光沢加工、そしてカービングによる浮き彫り加工は中国緞通だけが持っている特殊な技術です。
中国緞通とペルシャ絨毯の違い
絨毯と言えばペルシャ絨毯が有名ですが、中国緞通とはどう違うのでしょうか?ペルシャ絨毯は独特の美しい模様を持つ絨毯で、比較的薄いのが特徴です。手織りのペルシャ絨毯は通気性が非常に良く、ダニに強いという特徴を持っています。中国緞通もペルシャ絨毯と同様に美しい模様が描かれているため、美術工芸品としての価値もあります。中国緞通は厚みがあるため非常にボリュームがあるのが特徴です。手織りで厚みを持たせてひとつひとつ織り上げているため、高い強度を持っています。強度があるため非常に長持ちし、10年、20年と言わず50年以上使うこともできる絨毯です。厚手の織物を指す「緞」という漢字の通り、中国緞通は厚手であることが大きな特徴と言えます。
緞通には模様が織り込まれますからきちんと柄を描き出すには同じ調子で結んでカットして行く熟練の技が必要となって来ます。こうやって人の手によってしっかりと織られていると、表面にはベロアのような滑らかな艶や光沢が生まれ、素材は密になった分フエルト化するので大変丈夫で、何十年も価値を保ちつつ使い続けることができるのです。この緻密さは機械では再現は不可能で、人の手でなければこんなに細かい密度で丈夫に織ることは出来ません。ですから単位面積あたりのパイル数が多いほど手間がかかり高品質となります。
ウール製の中国緞通の特徴
絨毯の素材としてよく使われているのがウール(羊毛)です。ウールは柔らかい肌ざわりを持ち、撥水性、吸音性、吸湿性、防汚性など様々な機能を持つ優れた素材です。繊維が縮れているため非常に弾力があり、縮れによって空気を多く取り込むことができます。断熱窓に使われているように空気というのは断熱効果があり、ウールも熱を逃さないので保温効果が高いという特徴もあります。中国製のウールは丈夫なので耐久性に優れており、絨毯の素材として非常に適しています。起毛性に優れているため、人の出入りが多い場所に敷くことができます。ウールは絨毯の素材として非常に優れた性質を持っているため、中国緞通をはじめ多くの絨毯に使用されています。
規格は大きく分けてウールなどでは90段、120段、150段、シルクではさらに細かくなり120段、140段、160段、180段、200段、220段、260段、300段等です。 ちなみに90段とは、1フィート角(約30cm角)に結び目が90×90個すなわち8100個の結び目があるという事。気が遠くなる様な作業の連続ですね。この緞通を作り上げるのには手の速い熟練の職人でも数か月から、大きいものでは何人もの熟練工が織って数年もかかるものもあります。
シルク製の中国緞通の特徴
シルクはペルシャ絨毯にも使われている素材で、なめらかな肌ざわりと美しい光沢が特徴の素材です。高級緞通に使われる多いことが多い素材で、中国緞通でもシルクが使われています。シルクは細かい模様を表現するのに適した素材ですので、シルクの中国緞通は繊細で美しい模様が描かれているのも特徴です。耐久性と起毛性に優れたウールと違って摩擦に弱いため、あまり人が出入りしない場所に適しています。直射日光にも弱いため、日が当たらない場所に敷く方がよいでしょう。
中国緞通の織り方ですが、しっかり張られた縦糸にシルク絨毯なら絹糸、ウール絨毯ならウールを8の字に結び付け、ダ刀と呼ばれる刀で切り取る操作を繰り返して、一段織り終えると緯糸を通し耙子と呼ばれる千歯扱を小さくした様な道具で上から叩いて目を締め、その後鋏で余った糸を切り、表面を揃えます。1日に8時間の作業で4000個の結び目が限界です。細かい織りの為、シルク緞通は主に手先が器用で目の良い若い子でないと作業出来ないのです。
中国緞通のデザイン
現在の中国緞通の作り方ですが、手で作り上げるものですから作業工程は昔と同じやり方を守っています。ただ最近はデザインのニーズが伝統の古典柄である、壷などの文様を散らした北京柄、ロココ調のフランス柄。無地の緞通に花などの 図柄が浮き彫りにされた素凸柄。 梅、菊などの花が緞通の両端に織り込まれた彩花柄などのほかに、モダンなデザインやペルシャ絨毯風のものまで登場しています。そうしたデザインは美術工芸の知識と緞通の生産工程の知識を合わせ持ったデザイナーが原画を描き、原画から実物大に拡大し、原案に色糸の指定を行いそれに基づき原案の色付けが施されます。結び目の一つ一つを色分けして行く細かい作業で、一枚の原図を仕上げるのに約一ヶ月を要します。その原図をもとに実際に織る緞通の大きさに拡大された設計図で緞通は織られます。