ペルシャ絨毯の歴史

実はペルシャ絨毯の起源については、正確には解明されていません。その発祥については、現在より3000年から4000年前とも考えられています。現存する絨毯の中で、最も古いものは、ロシア、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に保管されている「バジリク絨毯」になります。こちらは、南シベリアのスキタイ王家墓稜より発掘されました。そのデザインが、ペルシャ最初の王朝となるアケメネス王朝期のものと酷似しており、赤を基調とし、細部に青・緑・黄色が使用される色彩の様子がペルシャ絨毯の様式と似ていることから、ペルシャが源流ではないかと推測されていました。現在では、考古学的視点からの研究により、中央アジアで制作されたものという説が有力となっています。

世界最古のペルシャ絨毯

では、現存する世界最古のペルシャ絨毯とは?
イラン北部のタブリーズ付近で16世紀頃作られた絨毯だと言われています。ヨーロッパの美術館、博物館で展示されているものを見ることができます。その中でも、傑作とされ広く知られているのが、現在ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館に所蔵されている「アルデビル絨毯」です。1540年頃、サファヴィー朝時代のイランで作られたもので、当時の支配者、タフマープスの命により、イラン西北部アゼルバイジャン地方のアルダビールにある、先祖を祀ったイスラムの聖廟に収められたそうです。製作者の名はマスクード、イスラム歴946年(西暦1539年から1540年)に完成したことまで判明しています。10m強×5m強の巨大なサイズの絨毯からは、圧倒的な力を感じます。それは、大きさだけのことではなく、その繊細で緻密、美しいデザインと色彩が見るものを引き込む存在感を放っているからです。

古代ペルシャの人たちは、日常的にこの絨毯を使用していたのでしょうか?実際のところ、高価なペルシャ絨毯は19世紀後半まで、一部の裕福な人たちの間でしか使われていませんでした。16世紀のサファヴィー朝時代には、絨毯づくりは積極的に行われ、絨毯産業も発達していきました。アッバース帝治世には、絨毯工房も数多く建築され、金糸が入った絹で作られる豪華絢爛な絨毯は、外国の王族への贈答品としても使われていたようです。絨毯の文様も、それまで部族の間で受け継がれていた素朴なものから、曲線的で優美な宮廷風デザインへと変化しています。トルコ王朝や、インド王朝に影響を与えた絨毯としても知られています。ペルシャ絨毯の黄金期とも呼ばれるこの時代は、工芸品の他にも、芸術的な文化が発展した時代になります。ヨーロッパへの輸出も行われていましたが、ペルシャ絨毯の美術的価値、商品的価値が認識され、ヨーロッパでペルシャ絨毯が広まっていくのは19世紀後半になってからです。18世紀、サファヴィー王朝が終焉を迎えるとともに、一部を残し、絨毯の生産も途絶えてしまいます。

ペルシャ絨毯産業の発展

1860年代に入ると、イランの主要都市のあちこちで、ペルシャ絨毯の生産が再び盛んになります。タブリーズやケルマン、イスファハン、マシュハドといった交易が盛んだった都市とその周辺で、ペルシャ絨毯産業は復興していきました。19世紀後半、イランの都市タブリーズでは、商人たちがペルシャ絨毯の生産・流通に力を入れるようになります。ヨーロッパでの市場開拓をタブリーズの商人達が自ら行うようになったのです。経済的に余裕があるものは大規模な絨毯工場を立ち上げ、多くの職人を使い、絨毯の大量生産を始めました。都市工場での大量生産とは反対に、地方では、小規模な絨毯工芸の輪が広がっていきました。タブリーズの商人達は、アゼルバイジャンやケルマン地方を訪れ、ペルシャ絨毯の織り手の確保へ乗り出したのです。これにより、多くの町で絨毯の生産が拡大していくことになります。また、イラン西北部のアゼルバイジャン地方東北部のホラーサーン地方、イラン西部のザクロス山脈周辺などで生活する遊牧民族がペルシャ絨毯を生産するようになります。遊牧民達の作る絨毯は都市部で生産されるものと違い、素朴な暖かい風合いや、抽象的なデザインが評価され、ヨーロッパで注目されました。

第一次世界大戦後、市場の変化などはありましたが、ガージャール朝時代、バフラヴィー朝時代、王制が廃止された現在でも、ペルシャ絨毯はイランを代表する工芸品として世界に認知されています。

日本最古のペルシャ絨毯とは?

現在の日本では、ペルシャ絨毯はインテリアの一つとして溶け込んでいますが、古来日本でも、シルクロードと中国を経由し、ペルシャ絨毯が渡っていたと言われています。京都の高台寺には、豊臣秀吉が身に着けていたとされる、ペルシャ絨毯を裁断して作られた陣羽織が残されています。また、祇園の町では、何百年も前からペルシャ絨毯が伝統的に受け継がれ、大切に保管されてきました。保存状態がとても良いため、貴重な文化的遺産として、世界中から高い評価を受けています。京都で催されている祇園際では、山鉾の懸装にペルシャ絨毯が使われているのを見ることができます。

魏志倭人伝の中には、「邪馬台国の女王卑弥呼に、魏の明帝が絨毯と思われる敷物を贈った。」という記述があり、こちらが日本最古の絨毯についての記録とされていますが、もちろん現物は残されていません。

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