ペルシャ絨毯は、手作業で糸を一つ一つ結んでいくことにより作られることは説明しましたが、それを行うのが織り子と呼ばれる職人達です。幾日も織り機の前に座り、一つ一つ丁寧に糸を結んでいく作業をひたすら繰り返します。数えきれないほどの結び目を作り、長い時間をかけて絨毯は完成します。その作業はとても神経を使うため、織り子は最大限の集中力を要する仕事となります。結び目の一つが緩んでも、図案に歪みが出ますし、幾日もかけて作られるものですから、その日の織り子の気分が糸の結び方に反映してしまうと目の揃った美しい絨毯には仕上がりません。
主な産地には、有名なペルシャ絨毯工房がいくつもありますが、その中では、壁に沿って置かれた大きな織り機が活躍しています。織り機の前には長椅子が置かれ、何人もの織り子達の手で、様々な絨毯が織られています。
ペルシャ絨毯の生産が再び盛んになり始めた1980年代、タブリーズでは、大きな工場で織り子として働いていたのは、成人の男性と、まだ少年とも呼べる年代の男の子がほとんどでした。イスラム教徒の中では、女性が外で働くことは、不道徳だという考えが色濃くあり、当時の女性達は家庭内での作業は行っていたようですが、工場へ働きに出るケースは少なかったようです。こうした、家庭内工業を行っていた家では、代々母から娘へ、絨毯の織り方を伝えてきました。
現在、ペルシャ絨毯の織り子には、男性も女性もいるのですが、特に美しい絨毯を織ることができるのは、まだ若い年齢層の女性だと言われています。実際、15歳から20歳ほどの女性達が多く織り子として活躍しています。女性の細やかな指使い、誠実で丁寧な仕事ぶりは、絨毯の質の良さを向上させます。若い女性ならではの、長時間続く集中力は、まさに、高品質の絨毯を作り出すためのキーポイントとなるでしょう。10歳を超えると、絨毯の織り方を学び始める彼女達は、まだ年若い身でありながら、すでにベテランの技とプロの誇りを併せ持っています。
女性が一番美しいとされる、少女から大人へ向かう時期に織られる絨毯は、彼女達の仕事への情熱が込められた作品です。美しさに感動するばかりでなく、何か神聖なものさえ感じさせるペルシャ絨毯には、年若い少女達の様々な想いが、糸と一緒に織り込まれているのでしょう。出来上がった絨毯を見るものは、無意識のうちにそれを感じとっているのではないでしょうか?それも、ペルシャ絨毯の魅力の一つだと思えるのです。
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